身元保証について
- 2010.04.11 Sunday
- 13:35
今日は「身元保証」についてお話します。
企業などに入社する際によく保証人が要求されます。
身元保証は、入社する者が、万一、会社に損害を与えた時にその賠償責任を問うものですが、その人物自体の身元を確認する目的もあります。
企業側は入社者の素性など十分な調査をすることはできないため、何かあたっときのために保証を取っておくものです。
身元保証人には広範な責任を負わせたいとこかもしれませんが、これには注意が必要です。
「身元保証に関する法律」(いわゆる身元保証法)という法律があります。 ※下段条文掲載
この法律では、「身元保証人の保証責任の範囲や限度は合理的な範囲に制限されており、これに反する責任を負わせる契約をしても無効」となっています。
つまり身元保証といっても、その社員が職務と無関係な行為によって会社に損害を与えた場合にまで責任を負わせることはできないのです。
損害が発生した場合でも企業側(使用者)にその社員(被用者)の監督について過失がある場合は、身元保証人の責任が限定されたり、軽減されたり、免責されたりします。
このことが、“合理的な範囲に制限されている”という意味です。
次のような判例があります。
【会社の管理体制、指導監督懈怠を理由とする判例】
・身元保証人の責任が二分の一に
(東京地裁平成5年11月19日判決))
・身元保証人の責任が免責に
(仙台高裁平成4年4月17日判決)
では保証の期間はどうなっているのでしょか、入社時に契約をしておけばいいのでしょうか。
身元保証書の中で保証期間を定めなかった場合は、その「契約成立日から3年間」です。
“商工業の見習者”の場合は「5年」となっています。
会社は“商工業”ですから5年になるわけですが、この“見習者”って表現は何でしょう…?
実は、身元保証法は昭和8年の制定という、とても古い法律です。
当時の社会で言う見習者とは、おそらく “丁稚奉公” みたいなことを前提としたのでしょう。
今で言うなら “新しく入社する人” と考えればいいと思います。
それと、保証の期間は5年を超えることはできません。
もし超える内容で記載しても5年に短縮されます。
新たに5年の更新契約をすることはできます。
しかし保証人の契約管理している企業はほとんどないでしょう。
5年もまじめに勤めれば、会社内での社員の能力や適性も分かり、信用や実績もできています。
あとは会社の自己責任で社員を管理するものだからです。
身元保証は企業側にとっては必要でしょう。
でも5年間というのは短いようで長いです。
最近の社会状況では、5年の間に身元保証人が保証できなくなっているかもしれません。
亡くなってしまうかもしれません。
身元保証人になった人(例えば父親)が亡くなっても、保証人の変更手続をしていないのが現実でしょう。
また企業側は、社員の勤務地が変わったり、役職者になって重責になったり、職種が変わったりと、その度に身元保証人に通知する手続もやっていないでしょう。
企業にとっては契約内容や契約期間を管理し追っかけるのはとても面倒なのです。
これもリスクマネジメントの一つでしょうが、“カタチばかり観”はいがめません。
「とことんやるか」
「どこまでやるか」
「ゆるくやるか」
「そもそもやらないか」
あなた、もしくはあなたの企業はどのようになっていますか?
(参考)条文----------
身元保証に関する法律
公布:昭和8年4月1日
※以下、現代語訳
第一条
引受、保証その他どのような名称であっても、期間を定めずに被用者の行為によって使用者の受ける損害を賠償することを約束する身元保証契約は、その成立の日より三年間その効力を有する。但し、商工業見習者の身元保証契約については、これを五年とする。
第二条
1.身元保証契約の期間は、五年を超えることはできない。もしこれより長い期間を定めたときは、これを五年に短縮する。
2.身元保証契約は、これを更新することができる。但し、その期間は、更新のときより五年を超えることはできない。
第三条
使用者は、左の場合においては、遅滞なく身元保証人に通知しなければならない。
1.被用者に業務上不適任または不誠実な事跡があって、このために身元保証人の責任の問題を引き起こすおそれがあることを知ったとき。
2.被用者の任務または任地を変更し、このために身元保証人の責任を加えて重くし、またはその監督を困難にするとき。
第四条
身元保証人は、前条の通知を受けたときは、将来に向けて契約の解除をすることができる。身元保証人自らが、前条第一号及び第二条の事実があることを知ったときも同じである。
第五条
裁判所は、身元保証人の損害賠償の責任及びその金額を定めるとき、被用者の監督に関する使用者の過失の有無、身元保証人が身元保証をするに至った事由及びそれをするときにした注意の程度、被用者の任務または身上の変化その他一切の事情をあれこれ照らし合わせて取捨する。
第六条
本法の規定に反する特約で身元保証人に不利益なものは、すべてこれを無効とする。
附則
本法施行の期日は、勅令(昭和八年勅令二四九号)によってこれを定める。
本法は、本法施行前に成立した身元保証契約にもこれを適用する。但し、存続期間の定めのない契約については、本法施行の日よりこれを起算し、第一条の規定による期間、その効力を有する。存続期間の定めのある契約については、本法施行当事における残存期間を約定期間とする。もし、この期間が五年を超えるときは、これを五年に短縮する。
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※以下、原文
第一条
引受、保証其ノ他名称ノ如何ヲ問ハズ定メズシテ被用者ノ行為ニヨリ使用者ノ受ケタル損害ヲ賠償スルコトヲ約スル身元保証契約ハ其ノ成立ノ日ヨリ三年間其ノ効力ヲ有ス但シ商工業見習者ノ身元保証契約ニ付テハ之ヲ五年トス
第二条
1.身元保証契約ノ期間ハ五年ヲ超ユルコトヲ得ズ若シ之ヨリ長キ期間ヲ定メタルトキハ之ヲ五年ニ短縮ス
2.身元保証契約ハ之ヲ更新スルコトヲ得但シ其ノ期間ハ更新ノ時ヨリ五年ヲ超ユルコトヲ得ズ
第三条
使用者ハ左ノ場合ニ於テハ遅滞ナク身元保証人ニ通知スベシ
1.被用者ニ業務上不適任又ハ不誠実ナル事跡アリテ之ガ為身元保証人ノ責任ヲ惹起スル虞アルコトヲ知リタルトキ
2.被用者ノ任務又ハ任地ヲ変更シ之ガ為身元保証人ノ責任ヲ加重シ又ハ其ノ監督ヲ困難
ナラシムルトキ
第四条
身元保証人前条ノ通知ヲ受ケタルトキハ将来ニ向ケ契約ノ解除ヲ為スコトヲ得身元保証人自ラ前条第一号及第二条ノ事実アリタルコトヲ知リタルトキ亦同ジ
第五条
裁判所ハ身元保証人ノ損害賠償ノ責任及其ノ金額ヲ定ムルニ付被用者ノ監督ニ関スル使用者ノ過失ノ有無、身元保証人ガ身元保証ヲ為スニ至リタル事由及之ヲ為スニ当リ用ヰタル注意ノ程度、被用者ノ任務又ハ身上ノ変化其ノ他一切ノ事情ヲ斟酌ス
第六条
本法ノ規定ニ反スル特約ニ反スル特約ニシテ身元保証人ニ不利益ナルモノハ総テ之ヲ無効トス
附則
本法施行ノ期日ハ勅令(昭和八年勅令第二四九条)ヲ以テ之ヲ定ム
本法ハ本法施行前ニ成立シタル身元保証契約ニモ之ヲ適用ス但シ存続期間ノ定ナキ契約ニ付テハ本法施行ノ日ヨリ之ヲ起算シ第一条ノ規定ニ依ル期間素ノ効力ヲ有ス存続期間ノ定アル契約ニ付テハ本法施行当時ニ於ケル残存期間ヲ約定期間トス若シ此ノ期間ガ五年ヲ超ユルトキハ之ヲ五年ニ短縮ス
以上